抱えている問題それぞれ-ちはやふる24巻感想(1)

ちはやふる24巻の感想です。

主人公キャラ3人にはほとんどスポットライトが当たらず
詩暢ちゃんと大人3人の物語が掘り下げられた巻でした。



◆抱えている問題それぞれ◆


ちはやふる(24) (Be・Loveコミックス)


・主人公たち

主人公3人は目立っていなかったものの
気になるポイントがいくつかありました。


千早

周囲の応援や期待を「雑音」と評価した千早。
詩暢ちゃんの気持ちを思いやった結果
このような評価をしたのでしょう。
しかしみんなから色々なものをもらって成長している
千早らしからぬ発言です。

今後、周りの無責任な応援や期待に力をもらう状況が千早に訪れて
「雑音」という評価をあらためる事件が描かれることを
無責任に期待しています、末次先生☆


太一

千早から名人戦に出ているかもしれないと思われています。
同じA級の肉まんくんは札ボーイ候補なのに(笑)

まだまだ迷走していますが
その情熱が高く評価されたのでしょう。

千早からこのように思われている場面が描かれたということは
太一が今後名人を目指していくのかどうかが描かれる日も
近そうです。




高松宮杯に出る予定のようです。
理音ちゃんと違い「高松宮杯に出ます」という発言がなかったため
何回か読むまでスルーしていました。

新と千早はまたもやニアミスでしょうか。

千早が次に太一抜きで新と会ったときは
新の告白に対する何らかの回答を余儀なくされるはずです。
しかしそれまでにこなすべきエピソードが
物語の構成上いくつかあるため
太一抜きで会うのはもう少し先になる気がします。

それにしても新の照れの描写は秀逸ですね。
新との電話で照れる千早(美少女)よりも
新の照れの方が何倍も可愛く思えました(笑)


主人公たちについては以上。
ここからは、猪熊さん⇒詩暢ちゃん⇒周防名人⇒原田先生
について書いていきます。



・猪熊さんの地力

クイーン戦1試合目。
猪熊さんは詩暢ちゃんと互角の試合をします。


吉野会大会で千早に負けた猪熊さんが
圧倒的強さを誇る詩暢ちゃんと対戦して、互角??
猪熊さんってそんなに強いの??
詩暢ちゃんの格、落ちてない??

そんな疑問がちらっと湧いてきたので
猪熊さんについてささっと振り返ってみます。


10月上旬、復帰戦の吉野会大会では
A級女子トップクラスと目される千早に惜敗。

しかし11月末の挑戦者決定戦では
同じくA級女子トップクラスの恵夢ちゃんに2連勝。

試合を重ねるごとに
感じや正確な動きなどが戻ってきたのでしょう。
猪熊さんの実力はかなりのペースで復活しています。
「全盛期はこれから」というセリフは
伊達じゃないようです。

さらにそこから約1か月半
元準クイーン桜沢先生やA級選手の生徒がたくさんいる
富士崎高校にちょくちょく通って実戦練習。
短期間でブランクを一気に埋めたものと思われます。

そもそも猪熊さんは4連覇した元クイーンです。
現実世界では5連覇以上したクイーンは3人しかおらず
(うち1人は詩暢ちゃんのモデルとなった楠木さん)
猪熊さんの強さは歴代クイーンの中でも
おそらく5本の指に入るレベルの実力者です。
そしてあの冷静で客観的な桜沢先生をして
「まっすぐな天才」といわしめた人でもあります。

その天才猪熊さんが
当時より肉体的に衰えたとしても
3か月間強い相手と実戦や練習の経験を積み
ブランクを埋めた上、新たな武器も身に付けて
クイーン戦に臨んでいるのです。

復帰から3か月経ったいま
猪熊さんは全盛期と同等の強さを取り戻し
詩暢ちゃんと同様に化物レベル(失礼!)にいるのでしょう。

この試合は、永世クイーンに一度王手をかけた
歴代トップクラスの実績を誇る猪熊さんと
最年少クイーンにして
準クイーンを圧倒的強さで倒した詩暢ちゃんによる
夢の新旧最強クイーン対決!!なのですが
両者は地力でも拮抗しているとみてよいと思います。



・ママでも金

このクイーン戦、猪熊さんのモチベーションは
かるたを大好きな女性のため、です。

千早や理音ちゃんのため、そして桜沢先生や
もしかしたら金井桜さんのような女性のため。
子供がいても妊婦であっても
クイーンの夢を叶えられるということを体現し
みんなの希望になることを自らの使命としました。

3人目の子の妊娠が分かり
「全盛期はこれから」とすることが不可能になり
残された時間(いま)にできることを考えたとき
それはみんなの希望になることだったのでしょう。

‘自分のため’を大事にしてきた猪熊さんが
‘他人のため’を掲げてこの試合に臨んだようです。

猪熊さんのモデルが柔道の谷亮子(通称「柔ちゃん」)
であろうことは以前書きましたが
「ママでも金」を標榜した点まで重なってきました。



・猪熊さん3部作

猪熊さんの物語は
子育てと自分の道を両立しようと頑張るお母さんの苦悩をベースに
19巻⇒21巻⇒24巻、と大きく3つに分けて描かれました。
猪熊さんの物語は子を持つ女性の悩みや孤独を
かなりリアルに描いたものです。

搾乳シーンをあれだけ丁寧に描写した漫画って
他にはないのではないでしょうか(笑)
いや、そこのシーンに限らず
子を持つ女性にこれだけフォーカスする漫画って
なかなかないですよね。

で、以前にも書いたのですが
猪熊さんの個々の物語はとてもリアルで良いのですが
物語間のつながりがいまいち分からないのが
どうも気になってしまいます。

ぼくがこの漫画を好きなのは、物語が場当たり的に描かれず
前のエピソードと次に描かれるエピソードとが深くつながっていたり
キャラ設定とエピソードが一貫していたりするため
キャラクターが生きていると感じられるからなんです。

太一を例にとります。
太一の場合、活躍するシーンがあっても
突然、新のようにヒーロー的なかっこ良さを発揮したりはせず
自分の中でうじうじ悩みもがきながら答えを出していきます。
あくまでベースはヘタレでそこから徐々に脱却していく
という一貫性があります。

この点で猪熊さんは一貫しているのかそうでないのか
分からない部分がいくつかあるのです。
行間をいくら読んでも読み取りきれない部分があるんです。

猪熊さんは脇役だから仕方ないのか?とも考えましたが
登場してから2巻に1回のペースで大きな山場が来ている
隠れ(?)重要キャラですし
そもそも脇役(例えば夕ちゃんとか)でも
話をまたいでも細部まで一貫性を持たせて描いてあります。


①私が楽しむかるた!の境地(19巻)

②子育てとかるたの両立の悩み(21巻)

③全てのかるた好きの女性のために(24巻)

1 ①から②へは、いったん解決した問題を再度悩んだのか?
それとも、新たな問題にぶち当たったという扱いなのか?

2 ②で子供とかるたのどっちが大事という自問に対する
猪熊さんの答えはあるのか?
答えがあるのであれば、結局①なのか?
それとも違う答えを見出したのか?
答えを出さなかったのであれば
味方がいるからなんとかやっていけそうだという納得で
現実と折り合いをつけたということか?

3 ③へはどういう心の動きがあったのか?
「これから」ではなく「いま」しかないと分かったとき
猪熊さんの「欲」はどのように反応して
自分のため(①)だけでなく、全ての女性かるた選手のため
という答えを出したのか?


もう一度言いますが
こんな細かい指摘をするのは『ちはやふる』だからです。
普段、末次先生はこのような問題提起とそれに対する答えを
行間に忍ばせているのです。
(想像できる、ではなく、推測できる、のレベルで)

猪熊さんに関してはそれが読み取れなかったのが残念。
もちろん、ぼくが読み取れていないだけかもしれません。
上記の3つの問題についてご意見を頂戴したく
長々と書いてみました。



さて、お次は詩暢ちゃん。
24巻感想のメインです。



・絵札

詩暢ちゃんの「札のつながり」がついに明かされました。
ポイントは、絵札のイメージ。

仲の良さそうな絵札同士を近くに置いてあげたり
絵札の声を聞いて送り札を決めてあげたりと
要は‘お人形さんごっこ かるたバージョン’を
やっていたんですね。

かるた100枚と友達になった千早と
歌の背景を競技に持ち込んだかなちゃんを
足して2倍にした感じです。

しかし、灯台下暗しというかなんというかですね。
明かされてみれば
今まで描かれてきたまんまな詩暢ちゃんのスタイルですが
まさか配置や送り札にお人形さんごっこを持ち込んでいたとは!
17巻や23巻にヒントもあったのにスルーしてました。

ちなみに、詩暢ちゃんが「ぷっ」っと笑ったシーン
和泉式部が歌っているのは
「あいたーくて あいーたくて しにそうー」
西野カナの『会いたくて会いたくて』ですね。
この小ネタ、意外と気付いてない人もいるのでは?





・表面化

孤独ゆえにかるたに深い愛情を注ぎ
かるたとのつながりを深め
誰よりも強くなった詩暢ちゃん。

孤独こそ詩暢ちゃんの強さの理由。

ですが、本当は肉親の愛情や仲間に飢えています。
24巻ではその肉親に対する思いが表に出てきました。

きっかけはお母さんの不用意な一言。

おばあちゃんに政治の道具に使われていたと感じて
詩暢ちゃんはショックを受けます。

さらに、ショックを受けたそのタイミングで
救世主のように現れた数少ない友達の千早から
修学旅行(ごとき)でクイーン戦予選を欠場したことを聞かされ
追い打ちをかけられてしまいます。
自分には仲間はいないのだと。

自分の心のよりどころからあっさりと裏切られ(たと感じ)
詩暢ちゃんの気持ちは崩れてしまいます。


さらにさらに
孤独になるほど強くなるはず(by伊勢先生)なのに
絶望的な孤独感を覚えた直後に
クイーン戦初黒星を喫してしまうおまけ付き。

少し余談になりますが伊勢先生の言葉は詩暢ちゃんにとって
ある意味で免罪符だったのかもしれません。

伊勢先生曰く、私は「一人になるほど強くなる子」
――だから私は、一人でいいんだ

詩暢ちゃんの心のどこかにこういう気持ちがあったことは
想像に難くありません。
孤独だからこそ勝っているのであれば
あえて仲間なんて作る必要はない。

しかし、最も孤独を感じながら臨んだ試合で負けたことで
孤独とかるたの強さとが‘表裏の関係にはない’という
厳然たる事実を突き付けられました。
ただただ孤独の辛さだけが際立つようになったはずです。



・立ち直りの理由

圧倒的な孤独を感じた詩暢ちゃんですが
2試合目から3試合目の間の休憩時間で
絶望の淵から立ち直りかるたに向き合うようになるわけですが
なぜ気持ちを切り替えることができたのでしょう?

千早が応援に来てくれて、友情を感じたからでしょうか?

24巻で一番面白いのはここだと思います。
次の24巻感想(2)で3つの観点から説明を試みます。

24巻感想(2)へ


~抱えている問題それぞれ~




漫画『ちはやふる』

 1巻~4巻(一首~二十三首) 各話感想 目次

 5巻~8巻(二十四首~四十七首) 各話感想 目次

 9巻~12巻(四十八首~六十八首) 各話感想 目次


アニメ『ちはやふる』

 アニメ『ちはやふる』 各回感想 目次



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この記事へのコメント

千早太夫
2014年05月10日 08:03
久々に神場さんの分析を堪能しました。やはり、こうでなけりゃ。

詩暢ちゃんが弱くなった訳ではないと私も思います。

千早が猪熊さんに勝てたのは、そもそも千早が夏の選手権よりも成長したからだと思うのですが、猪熊さんのブランクも大きかったと思います。
対千早戦では息が上がる場面もありました。

でも、もともと猪熊さんは「感じがもっと良くなった若宮詩暢(by肉まん君)」なバケモノだったのですから、復調して実力が戻ったら、詩暢ちゃんと互角に戦えて当然です。

本編で「子どもが3人いても、女王に…」のところを読んだとき、てっきりダンナさんを入れて3人かと思いました(笑)。
悪阻の描写を見るまで妊娠に気がつきませんでした…。
あ、でも西野カナにはすぐ気づきましたよ(笑)。

千早は修学旅行を選んで、みちるちゃんの友情に報いて欲しい…と当時願っていました。
が、いざそうなると今度は、詩暢ちゃんに知られたら怒られるぞ…と心配もしていました。
旅行先の京都で詩暢ちゃんとバッタリ…という展開を予想してましたが、この大舞台に持ってきましたね。
しかも、千早の選択がクイーン戦にまで影響を及ぼしてしまうとは。

神場さん、25巻では千早が詩暢ちゃんに着けてやった襷に注目してくださいね。
2014年05月10日 23:40
千早太夫さん、こんにちは!

あ、なるほど。「うちはだんなが子供だから子供が3人いるみたいなものなのよ・・」とか聞きますもんね!そうすると、「子供が3人いても、女王になれるって」のシーンはギャグっぽい印象だったわけですね(笑)

修学旅行は行っても行かなくても友達を裏切る形になってしまうという究極の選択でしたね。京都でバッタリもなかなかエグい展開ですね。
また、千早が仲良くなって、詩暢ちゃんの支えの一部になってしまったがために、詩暢ちゃんの絶望をダメ押ししてしまったので、千早も罪な女です(笑)
25巻も楽しみです。

みかのつみき
2015年07月16日 08:30
はじめまして。先日こちらのブログの存在を知り、過去記事を読ませていただいております。一年以上前の記事にコメントをするのもどうかと思いつつ……
猪熊さんの心境についてですが、1と2には絶えず揺り戻しがあるのではないかと思うのです。
一旦決めたことでも、子どものことに関しては、これでいいのか、これで良かったのかといつも自問してしまいます(私は)。子どもの成長にしたがって、その都度問題も変わっていきます。ある問題が解決しても、また新たな問題がやってくるので、猪熊さんの心境というのはとてもリアルに感じます。
これからまた過去記事読ませていただきます。新着記事も楽しみにしています。
2015年07月20日 01:39
みかのつきさん、はじめまして!

猪熊さんの揺り戻しについては同感です。いったん、自分で一応納得してもまた葛藤が生じるという事態は誰しも経験することですが、子育てをするお母さんの葛藤はその最たる例だと思います。

この記事(や21巻感想)で取り上げている疑問点は、リアルかどうかとはまた別の観点によるものです。
『ちはやふる』は、脇役のキャラクターであっても、以前の問題意識とその解決を受けて次の問題意識が発生する、という順を追った物語構造になっていることが多いです(以前の記事では「アウフヘーベン」という言葉で説明しました)。猪熊さんの一連の物語は作者がそのような構造で書いているのかどうか、というのがこの記事における疑問点でした。
21巻感想でも似たようなことをコメント欄で書いたのですが、念のため、本文の簡素な説明を少しだけ補わせてもらいました。

過去記事へのコメントありがとうございます。最近は記事を書く頻度が減ってしまい、しかもちはやふるの記事の割合も少ないのですが、ボチボチと続けていくつもりです。


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